「桃」と「梨」と「おもてなし」。新橋で見つけた、掛け言葉の教科書
ありきたりな名前は、覚えてもらえない。守ってももらえない
こんにちは。弁理士・ネームチェンジャー®の山田龍也です。
今回は「街で見かけたネーミング」のシリーズです。仕事で歩いている途中、ふと目に入った看板を、ネームチェンジャー®の視点でバッサリ斬っていきます。
舞台は新橋です。道の両側に建つ2つのアンテナショップ。ネーミングの出来栄えで、見事に明暗が分かれていました…。
■ 2つの県の名産を、1つの名前に
新橋駅の近くに、岡山県と鳥取県が共同で運営するアンテナショップがあります。その2階に入っているカフェ&レストランの名前が、「ももてなし家」。
岡山といえば「桃」。鳥取といえば「梨」。2つの県の名産物を店名に入れよう。ここまでは、おそらく誰でも考えるところです。
でも、そこで「桃と梨のレストラン」にしてしまったら、どうでしょうか。
説明としては間違っていません。内容も分かりやすいかもしれない。でも、いかんせん、ありきたりですよね。これではただの説明です。店名を見た人も「ふーん…」と、通り過ぎてしまうでしょう。
だから、興味を持ってもらうための一工夫、お店に入ってもらうための一捻りが必要になるんです。
一工夫、一捻りってどうしたらいいんだ?と思った方もいるかもしれませんね。一つ、試して欲しい方法が、掛け言葉、ダブルミーニング(二重の意味)です。
■ 「説明」を「言葉遊び」に変える一手間
では、「桃と梨のレストラン」ではありきたりだから、「ももとなし家」にしてみますか。これも桃と梨をそのまま並べただけで、まだ説明の域を出ていません。
そこで、この名前はもう一捻りしてあります。「桃」と「梨」に、「おもてなし」という言葉を掛け合わせて、「ももてなし家」としたわけです。
ここまで来ると、もう単なる説明ではなくなります。言葉遊びが入った造語になりました。私の採点では60点くらいですかね。合格点のネーミングと言えます。
このネーミングはコピーライターさんのような高度なネーミングテクニックを使ったものではありません。飲食業やサービス業には耳馴染みのある「おもてなし」という言葉をモチーフとして使っています。
「おもてなし」をそのまま使ったらありきたりですが、その語感を活かして、「桃」と「梨」に引っ掛けた。これがひねりの効いたネーミングを作っているわけですね。
以前、このニュースレターでも、ネーミングは作るものではなく、見つけるものと言いました。ネーミングの材料は自分の身の回りに落ちています。ゼロからひねり出す必要はなくて、身の回りにある言葉を拾い上げて利用する。それで、気の利いたネーミングはできるんです。
■ 文字だけではなく、ロゴマークでも工夫してある
この「ももてなし」は、岡山県と鳥取県が商標登録していました(商標登録5749137)。
この商標はロゴマーク(図形商標)です。
桃の図形と梨の図形が、少しだけ重なるように描かれていて、その中に「ももてなし」の文字が入っています。「もも」の文字は桃の側に、「なし」の文字は梨の側に。そして、2つが重なった部分に、「て」の文字が配置されています。
「ももてなし」というひらがなの羅列を見ただけだと、すぐに意味を把握できないことがあるかもしれません。でも、ロゴマークにすると、「桃」と「梨」、「おもてなし」に掛けたんだなということがすぐわかります。
「桃」の図形と「梨」の図形が重なっていることで、岡山県と鳥取県が協力して進めているビジネスなんだということも伝わりそうです。
このように、ロゴマーク(図形商標)は文字だけでは伝えきれないニュアンスを補完することができます。さきほど、「ネーミングは60点」という話をしましたが、ロゴマークの分も考慮して+10点、70点に得点を上げておきます。
ネーミングとロゴマーク等のデザインは別々の作業ではありません。一つのイメージを伝えるための別アイテムにすぎないんです。だから、ネーミングとロゴマーク、あるいはネーミングとパッケージデザインなどはイメージのズレがないように歩調を合わせて作り上げていく必要があります。
■ 道の向こうの、もう一つのアンテナショップ
…なんてことを考えながら歩いていたら、道の向こう側にも、別のアンテナショップがありました。今度は香川県と愛媛県です。
そして、こちらの名前は「せとうち旬彩館」。
うーん…。ありがちな名前ですね、これは。ひねりも何もない。
地方自治体のショップですから、「せとうち」をアピールする、とにかくわかりやすく、という点が優先されたんだと思います。その考えもわからなくはありません。
ただ、そこを考慮しても、ちょっと勿体ないなぁというのが私の感想です。説明的な名前は、覚えてもらいにくい。お店の前を通り過ぎて3分後には、もう思い出せなくなりますから。口コミもされにくくなってしまいます。
■ 弁理士の視点・商標登録の視点
この2つの名前が商標登録されているか、特許庁のデータベース・特許情報プラットフォーム(J-Platpat)で調べてみました。
「ももてなし」は先程のロゴマークの形で登録されていました(商標登録第5749137号)。商標権者は岡山県と鳥取県です。
「ももてなし」は造語で、識別力(≒独自性)が高く、商標登録の可能性が高い言葉なので、商標登録はしておいた方がいいでしょうね。誰かに「ももてなし」の商標を先取りされてしまうと、使えなくなってしまいますから。
一方、「せとうち旬彩館」はどうだったかというと、出願の記録自体が見つかりませんでした。出願したけど拒絶されてしまったのではなくて、そもそも、出願していないということです。
説明的な名前なので識別力が低く、そもそも商標登録の可能性が高くなかった。だから、最初から諦めてしまったのかもしれません。可能性はゼロではないのだから、チャレンジしてもよかったと思うんですがね。
このように、識別力が弱い、ありきたりな名前(説明的な商標)は商標登録が難しいんですよね。この名前を誰でも自由に使えるということです。そうすると、他の店舗との差別化は難しくなるし、名前の資産化・ブランド化も難しくなるんですよね。
■ ただし、「登録した=安心」ではありません
もう一点、これは経営者の皆さんに知っておいていただきたい話です。
商標登録で大事なのは、商標(名前やロゴマーク)だけではありません。その商標をどんな商品やサービスに表示するのかです。商標登録の際には、それらの商品やサービスを指定し、その部分だけに商標権を発生させる仕組みになっているんです。
ただ、商標登録第5749137号の「ももてなし(ロゴマーク)」で指定されているのは第35類のサービス(小売りサービス等)だけでした。特産品の物販のショップであれば、これで十分なのですが、「ももてなし家」はレストランですからね。本来なら、第43類のサービス(飲食物の提供など)も指定しておいた方がいいはずです。この辺りの内部事情はわかりません。
商標登録の仕事をしていると、商品・サービスの指定間違いや指定漏れはよく見かけます。商品・サービスの指定が漏れてしまうと、その部分には商標権が発生しませんので、十分な注意が必要です。
既に商標権をお持ちの方は、一度、商標登録証の「指定商品・指定役務」の欄を確認してみてください。今、実際に行っている事業やこれから広げようとしている事業が、そこに入っているか?確認しておくことが大事です。
■ 中小企業・スタートアップ企業の経営者の皆さんへ
店名は、お客さんがあなたのお店に触れるいちばん最初のタッチポイントです。検索したときに最初に表示されるのも、名前ですよね。そこで印象に残らなければ、それだけでスルーされてしまいます。
店名だけではありません。商品名も、サービス名も、コミュニティの名前も、ご自身の肩書きもそうです。
ここで、2つの質問をしますね。
1つめ。その名前は、ただの商品説明・サービス説明に留まっていませんか?
もしそうなら、もう一捻りできないか考えてみてください。煮詰まってしまったら、「掛け言葉」「ダブルミーニング」を使えないか考えてみる。ヒントは意外に自分の周りにあります。おしゃれな言葉を創り出す必要はありません。
2つめ。その名前を使えなくなったら、誰かに奪われたら嫌だなと思えますか?
思えたなら、独自性の高い良い名前ができている可能性があります。まずは誰かに先に商標登録されていないか調べる、必要なら商標権を取るために出願手続きを行う。その際は、商標(名前やロゴマーク)だけではなく、その商標を表示したい商品やサービスも考える。
せっかく名前を考えるなら、将来的な財産となるように商標権として「財産の見える化」をしておくとよいですよ。広告掲載をして一時的にお客さんを集めるより、将来に向かってブランド資産を積み上げていきましょう!
まとめ
(※ この記事のポイントをインフォグラフィックスにまとめました。)
「ネームチェンジャー®の視点」は、旬のニュース・巷の事例を弁理士・ネームチェンジャーの視点でバッサリと斬り捨てる痛快なニュースレターです。中小企業やスタートアップ企業の経営者の方に、商標登録やネーミング・ブランディングのヒントをお届けしています。
それでは、また次回。弁理士・ネームチェンジャー®のヤマダでした。











ももてなしや、このネーミングだけでも行きたくなります。新橋なら今度行っちゃおうっかな😊🍑🍑🍐
山田さん、こんばんは。
「もも」と「なし」と「おもてなし」
響きがよくて、思わず声に出していました。
商標登録のお話も、言葉選びがわかりやすく自分でも理解できました☺️
素敵な記事をありがとうございます!