こんにちは。弁理士・ネームチェンジャー®の山田龍也です。
8月1日、お朔日詣りに行ってきました。その帰り道、神社の近くのショッピングモールをぶらぶら。そこで、出てしまった職業病…。
商品名が気になって気になってしょうがない!
今回の「街で見かけたネーミング」は、商標登録することができないネーミング・ブランド化できないネーミングについて。
たかがネーミング、されどネーミング。ネーミングをちゃんと考えていない人は、ビジネスで損をしてますよ、というお話です。
■ ①「手作りのバニラロールケーキ」は「ブランド」にはならない。
洋菓子の棚にあったのが「手作りのバニラロールケーキ」と「珈琲ロールケーキ」。
商品の中身はすぐわかる。でも、この商品名は「ブランド」にはなりません。こういう商品内容をそのまま説明しただけの表示は誰でも使えます。あなたの作ったロールケーキだけを示す商品名にはなり得ないんです。
こういう商品名は、「自分の商品と他人の商品を区別する力(識別力)」がありません。商標は誰の商品かを表す目印ですから、商標登録をすることもできないんです。
商標法では、その商品の普通名称や原材料・生産方法を示すにすぎない商標は商標登録しないことを定めています(商標法第3条第1項各号)。
「手作り」は生産方法、「バニラ」や「珈琲」は原材料、「ロールケーキ」は商品の普通名称。こういう商品内容をそのまんま説明するだけの名前は商標登録できないということです。
商標登録できないだけではありません。独占権云々は抜きにして、他にも損をしていることがあります。
ただ商品内容を説明しただけの名前は、「私は特別な商品じゃありません。何の特徴もありません。値段が安いだけが取り柄の汎用品です」と言ってるようなものです。
作り手がどれだけ手間をかけていても、それがお客さんには伝わらない。名前がありきたりということは商品の中身もありきたりなんだろうと思われてしまうということです。
名前にこだわらないことで、商品の価値まで下げているわけです。
■ ②「しまなみタルト」。商品名は誤解を招くものであってはいけない。
隣の棚にあったのが「しまなみタルト」。ネーミングを見ると悪くない。ただの商品説明にはなっていませんから。識別力で商標登録を蹴られることはなさそうです。
ただ、この「しまなみタルト」。商標登録の出願で一度、拒絶を食らっています。具体的な拒絶理由の内容までは見えないんですが、拒絶理由は「4条1項各号」と書いてあります。識別力(3条1項各号)ではなく、おそらく、「品質誤認を生じるおそれがある商標」ということで拒絶されたんだと予想しています。
商標登録の相談にいらっしゃる方は名前(商品名)のことしか話してくれません(苦笑)。でも、名前以外にもう一つ、商標登録で大事な要素があります。
その商標をどの商品・どのサービスに表示するか?ということです。商標登録は商品名とその商標を表示する商品やサービスとの掛け合わせで登録内容が決まります。そこも審査されるということです。
この「しまなみタルト」の出願書類、最初は商品として「第30類 菓子及びパン」と記載されていました。これだと、商標登録は認められません。
商品名は「しまなみタルト」、菓子やパンには「タルト」以外の菓子やパンもありますよね。「タルト」以外の菓子やパンに「しまなみタルト」と表示されていると、それが「タルト」だと思って買ってしまう人がいるかもしれない。だから、購買者が間違えるおそれがあるような商標を特許庁は登録してくれないんですよ。
この拒絶理由を受けて、出願人は商品の記載を「第30類 タルト」に修正したことで、「しまなみタルト」は商標登録されています(商標登録第5159844号)。
これで一件落着と思いきや、この商標登録にはちょっと問題があると思っています(笑)
写真をよく見てください。これ、どう見てもタルトじゃないですよね?どちらかというと和風のロールケーキです。
調べてみたら、愛媛ではカステラ生地で柚子入りの餡を巻いた郷土菓子を「タルト」と呼んでいるんだそうです。松山の銘菓で、農林水産省の「うちの郷土料理」にも載っていました。
ただ、一般に、「タルト」と言ったら、サクサクとした器状の生地の上に、クリームやフルーツなどをのせたフランス発祥の洋菓子のことです。キルフェボンとかで売っているあのお菓子ですよ。
私は、「第30類 タルト」という表現で大丈夫なのかな?と感じるんですよね。
商標権は全国区です。そして審査では商品の現物を見ません。あくまで出願書類に書かれた商標と商品を字面だけで判断します。
特許庁の審査官は、「タルト」をおそらく一般的な意味の「タルト」として考えている。でも、出願人は愛媛名物のあの「タルト」と思っている。同じ「タルト」を、両者が違う意味で解釈している可能性がある。
この仮説が正しいとすると、二つのマズいことが起こります。
ひとつは、思ったとおりの商標権を取れていないおそれ。「タルト」が洋菓子のタルトを指すのなら、愛媛の郷土菓子(ロールケーキ)は商品として指定されていないことになる。すなわち、商標権の範囲に入っていない。
もうひとつは、不正使用取消を請求されるおそれ。登録商標を指定商品(フランス菓子のタルト)ではなく類似商品(ロールケーキ)に使い、それが品質の誤認を生じさせていると判断されれば、商標の使い方が正しくないとして、不正使用取消審判の対象となる可能性がある(商標法第51条)。
私だったらどうしたか?これはなかなか難しい(苦笑)
商品を単に「タルト」と書くのではなく、「タルト(愛媛県伝統のロールケーキ状の郷土菓子)」みたいな書き方をしたかもしれません。これで、品質誤認の拒絶理由を解消できたかどうかはわかりませんが。
解釈が曖昧なまま、商標登録さえしてしまえばいいという話ではないんですよ。
■商標登録は大事。でも、商標登録さえできればOKという話でもない
①の「手作りのバニラロールケーキ」は、ネーミングを工夫しなかったために、自ら商品の価値を下げてしまっている例。 ②の「しまなみタルト」は、商標登録はできたけど、商標権の範囲がズレていて、本来守りたかったものが守れていない可能性がある例。
どちらも、ネーミングの詰めが甘いんです。そして、②みたいな例を見ると、商標登録って意外と難しいなと感じます。
当所のお客様でも商標権の権利内容がズレていた方がいらっしゃいました。本人は自分で手続きをして商標登録をできたと喜んでいたんですが(商品:宝石)、実際は欲しい商標権(商品:アクセサリー)が取れていなかった。
一般の方はこういうことに気が付かないんですよね。下手すると、自分が欲しかった権利を他の人にかっさらわれたり、商標権侵害の問題に発展することもありえます。恐ろしい…。
悪いことは言いません。商標の知識に乏しい方は一度、商標の専門家である弁理士に相談した方がいいですよ。
商標登録するなら、まずはネーミングから。
ショッピングモール編は次回にも続きます。次は餃子のネーミングについてです。
いやぁ~。あれは勿体ないな。早く教えてあげたい(笑)
次回もお楽しみに。
「ネームチェンジャー®の視点」は、旬のニュース・巷の事例を弁理士・ネームチェンジャーの視点でバッサリと斬り捨てる痛快なニュースレターです。中小企業やスタートアップ企業の経営者の方に、商標登録やネーミング・ブランディングのヒントをお届けしています。まだの方は、ぜひご登録ください。
そして、「うちの商品名、大丈夫かな?」と気になった方へ。ネーミング・ブランディング・商標登録のご相談は、クロスリンク特許事務所へどうぞ。
それでは、また次回。弁理士・ネームチェンジャー®のヤマダでした。






やっぱり弁理士さんはすごい👏
ええ~餃子のネーミング、それも面白そうです✨️
めちゃくちゃためになります。こういうのって自分がいざ商標取ろうとしたときに学び始めては遅いですよね👍