出荷できない「尻腐れトマト」が人気商品「闇落ちとまと」に化けた日。
弱みの中に価値を見出す「自虐ネーミング」の逆転術
こんにちは。弁理士・ネームチェンジャー®の山田龍也です。
前回の「ほぼカニ」に続いて、食品のネーミングについての話です。
今回の主役はトマトです。その子は黒いアザがある、決して美しいとは言えない子。でも、ネーミングの魔法がこの子を誰もが振り向くシンデレラに変身させました!
■ せいぜい加工品。そのままでは売れなかったトマトが一躍人気者に
トマトは、水やりを控えてストレスをかけることで甘くなるそうです。この方法で作っているのがフルーツトマト。
ただ、この方法では「尻腐れ」という現象が起こることがあります。カルシウムをうまく吸収できないと、果実の一部が黒く変色してしまうんです。
「尻腐れトマト」。見た目がちょっとグロい。まるでハロウィーンのかぼちゃのよう…。でも、その見かけに反して、甘みが凝縮されていて、とても美味しいトマトなんですって。
そうは言っても、商品作物は見た目が大事。この見た目だと市場に出してもなかなか売れない。この「尻腐れトマト」を扱っていた曽我農園では、仕方なく、ジュースやケチャップの原料に回していたんだそうです。
そして、あのコロナ禍の頃。トマトが余ってしまって、廃棄寸前まで追い込まれた。一縷の望みを託して、直売所の店頭に出しましたが、やっぱり売れない…。
ここで、曽我社長は逆襲のための一手を打ちます。ネーミング変更です。
名前は、「闇落ちとまと」。
2021年の5月。この名前でXに投稿したところ、これが25万いいねの大バズり。その日のうちに爆発的に拡散され、テレビや新聞も相次いで取り上げてくれました。直売所には開店前から行列ができ、整理券を配るほどの人気商品になったんです。
そして、このトマトは規格外の希少品。廃棄寸前だったトマトがプレミア価格で売れるようになりました。
■ 名前を作るのではない。トマトの中にあるストーリーを「見つける」。それが名前になる
曽我社長は、命名の由来をこんな風に話しています。
このトマトは『スター・ウォーズ』のアナキン・スカイウォーカーに似ている。並外れた資質を持ちながら、暗黒面に落ちてしまった。甘さという実力は本物なのに、見た目のせいで日の目を見ない。その姿が重なって「可哀想だ」と思った。
これが、命名のきっかけだそうです。
僕はいつも「ネーミングは作るものではなく、探すもの・見つけるもの」だと言っています。取ってつけたようなキラキラワードは要らない。現場の人の目線で、トマトの中に眠っていた物語を掘り起こす。
実力者の転落とその哀愁を、アナキン・スカイウォーカーになぞらえて「闇落ち」と表現した。「闇落ちとまと」は、その見た目とも相まって、みんなが「なるほど!」と手を打つ秀逸なネーミングだと思います。
■ ホントに「弱み」か?「個性」とは言えないか?
「尻腐れ」と「闇落ち」。どちらも黒いアザのあるトマトを指しています。でも、見ている方向が違う。見ている方向が違えば、見え方も変わってくる。それを言葉にすれば、伝わり方も当然、変わってくる。
「尻腐れ」と言ってしまったら、それはただの品質不良。「闇落ち」にすれば、それはキャラクターの紹介になる。見た目の悪さが「闇落ち感」を演出し、欠点だったはずの黒いアザが転落した実力者の哀愁を醸し出す。
それが、このトマトの「個性」になる。思わず写真を撮りたくなる。「ねぇねぇ…」と、人に話したくなる。SNSに投稿したくなる。拡散されるには拡散される理由があるんです。
私はこの手のネーミングを「自虐系ネーミング」と名付けました。他にもいくつかあるので、挙げてみましょう。
銚子電鉄の「まずい棒」 →経営が「まずい」。
chocoZAPの「やらんよりマシ」 →結果にコミットしない。
鳥取県の「スタバはないけど、日本一のスナバはある」 →人気の街ではない。
どれも自ら弱みを晒し、くすっと笑わせてくれます。
でも、一度、ネーミングで注目してくれれば、その弱みが実は個性だった、と伝わる仕掛けになっています。
経営状態は悪いけど全社一丸となって再建に取り組んでいる。ストイックにやるのは無理だけど、少し運動したいなぁという人にそれを実現する環境を提供している。決して繁華街ではないけれど、素晴らしい観光資源を持っている。
「闇落ちとまと」もそう。見た目は悪くても、正規品以上に甘い。この魅力があって初めて成り立つということです。
ただの不良品に、イケてるネーミングをつけてもヒット商品にはなりません。ネーミングはあくまでその商品の魅力を伝えるための手段なんですから。
■ あなたの商品、「尻腐れトマト」のままになっていませんか?
ネーミングというと、商品の魅力をポジティブに伝えたい、できるなら盛りたい、という方向に頭が行きがちです。
でも、一度立ち止まって、自分の商品をよく見てください。良いところばかりではないはずです。良いところばかりを並べても、どこか嘘っぽく聞こえます。他社の商品と似たり寄ったりになることもあるかもしれません。
弱みも含めて、そこにどんな物語が眠っているかを探す。「闇落ちとまと」が教えてくれるのは、弱みの中にこそ、他の誰も持っていない「あなただけのストーリー」が隠れているかもしれないということです。
オール5の優等生って意外とつまらないんですよね。悪ぶっているけど実は子供に優しい不良学生の方が魅力的だったりするもんです。
■ 実践ワーク。物語を探せ!
尻腐れトマトは、名前が変わっただけで、行列のできる人気商品になりました。トマト自体は何ひとつ変わっていないのに、ですよ。
そこで、ひとつ提案です。
紙とペンを用意して、あなたの商品やサービスの「弱み」を3つ、書き出してみてください。値段が高い。見た目が地味。手間がかかる。田舎にある。なんでも構いません。普段は隠していること、お客さんには言わないこと、がいいかもしれません。
書き出したら、その一つひとつを眺めながら、「逆にそこが魅力にならないか?」
「これは物語にならないか?」と、問いかけてみてください。
値段が高いのは、選りすぐりの職人・匠が作っているからかもしれない。見た目が地味なのは、天然の染料だけにこだわったからかもしれない。
曽我農園が黒いアザの中にアナキン・スカイウォーカーを見つけたように、あなたの弱みの中にも、何か物語が眠っているかもしれません。
名前は作るものではなく、見つけるもの。
そしてその名前は、案外、あなたが魅力と感じていなかったところ、隠していたところにヒントがあるかもしれないんです。
まとめ
この記事のポイントをインフォグラフィックスにまとめました。
「ネームチェンジャー®の視点」は、旬のニュース・巷の事例を弁理士・ネームチェンジャーの視点でバッサリと斬り捨てる痛快なニュースレターです。中小企業やスタートアップ企業の経営者の方に、商標登録やネーミング・ブランディングのヒントをお届けしています。
それでは、また次回。弁理士・ネームチェンジャー®のヤマダでした。









SWOT分析などをやっていると、脅威が良く考えると強みともつながっていたり、という点対称・線対称の対局位置の物事が表裏一体で存在すること多いです。
自身の弱みと思ってることが、別な人からみると、ものすごく魅力的に見えることってありますね
そうですねぇ。自分ではいつも当たり前に見ているから「大したことない」と思っているものが、他社から見たら、「すげーじゃん!」っていうことはありますよね。
バイアスってすごくてね。人は自分が見たいものを見たいようにしか見れない生き物なんだなって思います😌